業界情報
PEファンド・コンサルティングファーム・FASの違いとは|キャリアに与える影響も解説
目次
- MWH HR Products株式会社 代表取締役社長 大原 智彦
- PEファンド・コンサルティングファーム・FASの役割
- PEファンド(Private Equity Fund)の役割と業務内容
- コンサルティングファームの役割と業務内容
- FAS(Financial Advisory Service)の役割と業務内容
- PEファンドに向いている人とは
- PEファンドで働くメリットやキャリアパス
- コンサルティングファームに向いている人とは
- コンサルティングファームで働くメリットやキャリアパス
- FASに向いている人とは
- FASで働くメリットやキャリアパス
- それぞれの強みと得られる経験を理解した上で、自身のキャリアプランを検討しましょう
M&Aや事業再生が企業の経営戦略の1つとして一般的となった昨今、企業経営に関わりたいと考える方も増加傾向にあります。「PEファンド(Private Equity Fund)」「コンサルティングファーム」「FAS(Financial Advisory Service)」はどれも企業の課題解決や、事業支援に関われる業界です。
しかし、これら業界へ転職を考えている方でも、それぞれの違いを正確に理解できていない場合があります。
今回は、自身もPEファンド投資先において取締役・執行役、CFO/CSO/カンパニー長の経験を持ち、FASやコンサルティングファーム出身者と深く関わってきたMWH HR Products株式会社代表取締役社長 大原氏にPEファンド・コンサルティングファーム・FASにおけるそれぞれの特徴をお聞きしました。
MWH HR Products株式会社 代表取締役社長 大原 智彦
プロフィール / Linkedin
- 株式会社野村総合研究所 : 2000年~2004年
- 大和証券SMBCプリンシパルインベストメンツ株式会社:2005~2010年
- 株式会社企業再生支援機構:2010~2013年
- 株式会社夢真ホールディングス:2013~2015年(専務取締役)
- 株式会社ソルプラス:2015~2019年(取締役CFO兼CSO):PEファンド投資先
- 富士通コンポーネント株式会社:2019~2023年(執行役経営戦略担当 兼 複合カンパニーカンパニー長):PEファンド投資先
- MWH HR Products株式会社:2023年~現在(代表取締役社長)
PEファンド・コンサルティングファーム・FASの役割
PEファンド・コンサルティングファーム・FASのそれぞれの役割と違いについて教えてください。
一番大きな違いは、企業に対するポジションです。
PEファンドは資金を投資した後、株主の立場で企業の課題解決、最終的には企業価値向上にむけた取り組みを重ねるのに対して、コンサルティングファームとFASではあくまでアドバイザーとして企業の課題解決を支援します。
また、コンサルティングファームとFASではアドバイスを行う分野に違いがあり、コンサルティングファームはビジネス全般、FASは財務戦略を中心としています。
それぞれ役割や業務内容が異なります。違いを見ていきましょう。
PEファンド(Private Equity Fund)の役割と業務内容
役割
自社で投資先企業の選定(ソーシング)を行い、資金および人材資本投資によって企業成長、企業価値向上を目指す。
最終的に投資企業のEXIT(IPOや第三者への売却など)によって利益を得ることが目的となる。
業務内容
投資企業のソーシング、企業評価等投資業務、経営戦略の策定、経営人材紹介等企業価値向上に向けた各種施策実行、売却先検討およびEXIT業務など。
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コンサルティングファームの役割と業務内容
役割
クライアントが持つ事業課題や経営課題に関して幅広くコンサルティングを行う。企業の課題解決が役割であり、企業経営戦略や経営計画を提案する。
財務三表の中でもPLにおける営業戦略を担うことが多く、業務効率化や営業利益率の向上に向けた対策を行う。
また、企業によって得意とする課題分野が異なり、戦略計コンサルやIT系コンサルなど様々ある。
業務内容
クライアントの現状把握と課題分析、抽出した課題に対する解決策および行動戦略の設定、クライアントへの戦略説明、課題解決アクションなど。
FAS(Financial Advisory Service)の役割と業務内容
役割
クライアントにおける財務に特化した課題に対し、専門性の高い支援を行う。特にM&Aや事業再生コンサルティングが多く、M&Aのための企業価値評価なども行う。
また、コンサルティングファームとの相違点として、財務三表のPL,BS,キャッシュフローすべての改善戦略を担い、不動産売買や人事改革まで細かなタスクに対して高い効果を打ち出す。
業務内容
M&Aアドバイザリー、事業再生アドバイザリー、財務デューデリジェンス、企業価値評価、フォレンジック(不正調査)など。
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PEファンドに向いている人とは
PEファンドに向いている人材像について教えてください。
PEファンドの特徴として、企業投資の性質があるため、企業のマネジメントやガバナンスに働きかけて、企業価値を育てていくことに興味がある人が向いています。
株式投資や不動産投資と比べて、人が介在する少し面倒くさいことに興味を持って望めるかどうかが重要です。
具体的な人物像としては、投資銀行やFAS出身の金融業界を経験してきた方が多いです。私のようなポストコンサルの場合、企業のバリューアップに経験を生かせる可能性は高いですが、絶対数としてはそこまで多くありません。
また、PEファンドの採用がかなり狭き門でもあるので、一度FASを経由してからPEファンドに来る方も多くいます。ただ、PEファンドのサイズは年々上昇していて、業界自体が成長傾向にあるので、新規人材需要は今後も尽きることはないと思います。
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PEファンドで働くメリットやキャリアパス
PEファンドで働くメリットとしてはどんなものがあるでしょうか。
1つは自分たちが主体的に意思決定して、企業の行動を起こせる点です。アドバイザーの立場であるコンサルティングファームやFASとの大きな違いでもあります。
また、投資プランの企画から、ソーシング、バリューアップのための施策検討、M&A実務、EXITまで一気通貫して経験できる点も魅力の1つです。
PEファンドではとても幅広い知識を必要としており、デューディリジェンス、契約書作成、財務管理、法務、ファイナンスの知識など一連で学ぶことができます。実際に実務を全て担当するわけではなく、アドバイザーをハンドリングしながら成果に結び付けるイメージですが、得られる知識、経験量は大きな魅力でしょう。
PEファンド経験者のキャリアパスについて教えてください。
金融業界から移ってきた方だと、次のキャリアとして経営者や事業会社を思い描いている方は少ないです。中には転職する方もいますが、多くの方はPEファンドにおけるキャリアを長く続けている印象です。
ただ、私がそうだったように、経営者としてのキャリアを考えている方には、投資先の役員や投資ファンドの経験は貴重であり、プロ経営者としてのキャリアパスとして有益だと思います。
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コンサルティングファームに向いている人とは
コンサルティングファームに向いている人材像について教えてください。
コンサルティングファームでは様々な事業内容やビジネスジャンルを経験できるので、根源的なビジネススキルを上げたいと考えている方にはおすすめです。ルーチンワークがほとんどなく、プロジェクト単位で全くやることが異なるので、ビジネスの基本や振る舞いの基盤が身につきます。
未経験かつ若い方に一番チャンスがあるのもコンサルティングファームです。そのため、数年でビジネスを身につけたいという方にはとてもフィットすると思います。
コンサルティングファームで働くメリットやキャリアパス
コンサルティングファームで働くメリットとしてはどんなものがあるでしょうか。
コンサルティングファームでは、クライアントに向けて提案する経営戦略の論理性や正当性を伝える必要があります。
そのため、ロジカルシンキングやコミュニケーション能力、また資料の作り方も養われていきます。さらにビジネスの本質である状況把握能力や課題抽出が成長できる点も大きな魅力です。
コンサルティングファーム経験者のキャリアパスについて教えてください。
コンサルティングファームのキャリアパスは本当に幅広く様々です。ベンチャー企業や投資ファンド、事業会社の経営企画なども候補に挙がります。自身のキャリアの幅が大きく広がるのが、コンサルティングファームの特徴です。
FASに向いている人とは
FASに向いている人材像について教えてください。
自身の専門性を確立したい人にはとてもおすすめです。
例えば企業でちょっと財務関わっているとか、銀行で少しだけM&A触れていますみたいな方が、FASの経験を通して自分の専門性キャリアを作れるのは大きな魅力だと思います。
ただ、FASはある程度財務関連に触れた経験がないと、転職は難しいと思います。
財務関連を少しだけ経験していて、そこからキャリアを発展させていきたい方にお勧めです。FAS自体は未経験の方でもチャンスは多いですし、いわゆるBig4も積極採用を続けていて受け皿も大きいです。
FASで働くメリットやキャリアパス
FASで働くメリットとしてはどんなものがあるでしょうか。
先ほどと重複しますが、非常に狭い範囲のプロフェッショナルを目指せる点です。
FASのタスクはかなり細かく分かれていて、バリエーションや財務デューディリジェンス、事業再生、フォレンジックなど、狭い範囲で専門性を高めることができます。
例えば、FASの業務内に財務モデリングがあります。これは財務計画に対して、営業利益や前提条件を変更した時に、財務三票へ与える影響を図るシミュレーションモデルのことです。
この財務モデルはM&Aを行う上で必須スキルの1つとして数えられますが、意外と習得している人材は少なく、FAS出身の方、投資銀行のM&Aアドバイザリーの方が対象となります。そういった側面でも、PEファンドや投資ファンドにおいて重宝されます。
FAS経験者のキャリアパスについて教えてください。
FASを通して、財務モデルや財務処理経験を積んだ方が、PEファンドの投資担当として次のキャリアを踏むのは、順当なキャリアパスの1つです。PEファンドへのキャリアパスの通過点として、FASを考えている方も多くいます。
また、事業会社の財務関連や、商社のM&A部署など様々な選択が可能で、FASの経験は次のキャリアパスを描きやすいと思います。
それぞれの強みと得られる経験を理解した上で、自身のキャリアプランを検討しましょう
最後にPEファンド・コンサルティングファーム・FASへ転職を考えている方に一言お願いいたします。
企業の経営に関わる事業としても、これら3つの事業形態は大きく違いがあります。
自身の成し遂げたいこと、現状のスキルや経験から考えたときに、最も適したキャリアプランはおのずと見えてくるはずです。
それぞれの役割を理解したうえで、自身のキャリア形成に与える影響を考えてみてください。