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銀行員の強みと"転職"最新事情~若手、中堅、シニア年代別解説~

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銀行員の強みと”転職”最新事情~若手、中堅、シニア年代別解説~

終身雇用、年功序列型賃金・昇進制度といった慣行が崩れるなかで、銀行員は自らの市場価値やキャリアをどのように捉え、向き合えばよいのか。

 

金融機関や企業の幹部クラス のヘッドハンティングや人材紹介に取り組むMWH HR Products株式会社の藤枝美佳執行役員に、最新動向と年代層別の市場評価やキャリアなどについて解説してもらった。

MWH HR Products株式会社 執行役員 エグゼクティブコンサルタント 藤枝 美佳

 

プロフィール
2001年より人材ビジネスに従事。2005年から金融ビジネスを専門としたエグゼクティブサーチ会社にて人材紹介に従事。

 

現職には2013年に移り、約20年超にわたる経験、実績とネットワークを生かし、金融ビジネスのみならず、様々な企業の幹部クラスの紹介を手がけている。

 

MWH HR Products株式会社は、2023年10月にAIMSインターナショナルジャパン株式会社から名称変更。

地銀で転職希望、じわり増加

近年、転職市場が活況だが、金融業界でもそれは同様だ。

 

特にメガバンクグループのみならず、大手生命保険会社、損害保険会社などが続々とキャリア採用の門戸を広げている。これまで中途採用をしてこなかった金融機関でも、人手不足や専門的な能力の獲得を念頭にキャリア採用を始めている。

 

おそらく多くの金融機関が今後、雇用や給与・報酬、退職金の制度などを、よりキャリア採用に適した形に見直していくことになるだろう。

 

今はその過渡期だと思うが、いわゆる「バブル世代」が現役を退き始めるなかで、企業は慢性的な人手不足に陥っており、人材獲得競争は激しくなっている。キャリア採用は全産業的にさらに広がっていくだろう。それに伴い転職者もまた増えていくはずだ。

 

私自身は2005年から銀行、金融機関行職員向けの転職支援に携わっているが、20代の若手層から定年退職が見え始めた50代のシニア層のバンカーたちからの相談は相変わらず多い。そして、最近は銀行同士の合併や店舗の統廃合などを背景に、これまで転職とはあまり縁がないように思われてきた地域銀行の行員が転職を検討するケースが出始めている。

 

実際、居住地が首都圏に移っても構わないという前提で、転職活動に取り組む人も珍しくなくなってきた。金融のみならず、事業会社でも銀行員の経験、スキル・能力などを評価する職種・業種はある。その意味では、地域金融機関に務めている人たちにとっても転職市場は確実に近づいてきたといえる。

社会的な信用は、大きな強み企業で“GRC需要”高まる

転職市場で銀行員はどのように評価されているのだろうか。銀行出身者を事業会社が採用するにあたって、まずメリットとして考えるのは「社会的に信用がある」になるだろう。

 

メガバンクや地域銀行問わず、銀行に採用される人は身元が安定しており、且つ基本的なポテンシャルが高く、採用する側も安心して選考を進めることができる。この“信頼”は他業種に比べて大きなメリットになる。加えて、金融商品や資金調達などの金融ノウハウや財務諸表を読み解く会計知識、いわゆる“数字に強い”能力を持っていることを期待される。

 

また、銀行員には意外かもしれないが、日々の業務を通じて鍛えている書類作成能力や文章を書くことで培われている論理性が、他業種からは評価されることが多い。

 

そして最近、事業会社でとてもニーズが高くなっているのが、「GRC」といわれるガバナンス、コンプライアンス、リスク管理分野の専門人材だ。現代は一度でも不祥事が生じると、レピュテーションリスクが高まり、企業経営が困難になる場合がある。

 

この点、不祥事やハラスメントの防止・法令順守の徹底など、コンプライアンスやリスク管理が本業の1つともいえる銀行員に対する期待は大きくなっている。この分野での知見や専門的能力がある場合は、転職市場でも一定の評価を期待できる。

 

また、海外要員は上場企業でも不足しており、海外MBA取得や、海外駐在経験がある場合も一定評価を受けるだろう。人事制度作りや労務管理、株主総会対応などの経験も一定の需要がある。

 

一方で、銀行員については、ゼロから1を生み出す、新たなモノを創るといった発想力やイノベーション力については乏しいと評価されることが多い。新たな制度や習慣等に対する適応力では、他業種と比べて柔軟性に欠ける、要するに“頭が硬い”と思われがちということだ。人それぞれの面があるが、業界的にややマイナス評価される点だといえる。今は健康寿命が延び、現役時代は長い。

 

私は手遅れにならないためにも、20代後半、30代後半、40代後半とそれまでの自らのキャリアを振り返り、その先を考える「キャリアの棚卸し」をする機会を定期的に持つべきだとお話している。

 

我々のような外部専門家に相談するのもしかり、転職した先輩や同僚でも良い。銀行に残るにせよ、外に行くにせよ、自分の武器になる能力は何かをしっかりと見つめ直す機会を設けた方が良いだろう。
以下では年代層別に市場評価やキャリア形成において考えるべきことを解説する。

【20代・若手層】ポテンシャルには高い評価 最近は大企業へ“復帰”希望も

20代・若手層の銀行員は、転職市場で総じて高く評価される傾向にある。

 

キャリア採用の選考で若手層は主に“ポテンシャル”を評価されるが、銀行出身者は社会人としての基礎的能力や今後の伸びしろの部分でも高いと判断されやすい。

 

有名大学を卒業して銀行に入行した人がほとんどであり、かつ人材としての安心感もポジティブに評価される。転職を検討する20代前半の銀行員たちは、硬直的な人事・組織制度や前例踏襲的なカルチャーになじめず、入行時の理想と現実のギャップに悩んでいるケースが多い。入行3年以内に3割、5年以内に5割が辞めてしまうといわれる銀行界だが、実際に若手層の転職希望者は多い。

 

そして、転職先として今人気なのが戦略系コンサルティングファームなどだ。外資系だと報酬面では銀行よりも高いケースが多い(図表1)。最近は少し落ち着いてきたが、数年前はFintech企業やスタートアップ企業に身を投じる人も結構いた。

 

大きな裁量を持ち、責任ある仕事を任せてもらえ、働き方などの自由度が増す点に魅力を感じるようだ。適正が合えばCFO(最高財務責任者)など経営陣として活躍したり、スタートアップ企業を渡り歩くような人もいる。

 

給与・報酬面で考えても、20代前半であれば銀行とさほど大きな差はない。

 

そして、ビジネスが順調に拡大すればIPOも視野に入り、新規上場などが成功すれば、ストックオプションなどを通じて報酬面の恩恵も大きくなる可能性はある。

 

ただ、スタートアップ企業はビジネスの継続性や雇用の安定性という面でリスクはとても高い。無事IPOなどで成功すれば良いが、その恩恵を得られるのは「創業初期のごく一部のメンバーのみ」だったりもする。

 

そのため、最近はスタートアップ企業に転職した後に20代後半~ 30代前半で再度、大企業を志望する動きが増えてきた。銀行側もアルムナイと交流する動きが出ているが、その呼びかけに応じる20代~ 30代は増えていくのではないだろうか。

 

【30代~40代前半・中堅層】待遇面は十分に恵まれている 出向を機に転職に動くケースも

30代半ばを過ぎると転職市場では、“専門性”が問われるようになるが、銀行員の転職はそう多くはない。というのも、銀行員の給与は、20代後半~ 30代前半に上昇し始めるからだ。

 

メガバンクグループや大手行では30代前半では年収が1,000万円を超え始める。事業会社で働く同世代の年収は500万~ 700万円位が相場であり、1,000万円超は上場企業の部長級と同
等になる。

 

そして、40代前半では残業代や諸手当てを含めて1,500万円近い報酬を得ることもあり、十分に高給の部類に入る。地域銀行でも役職が付いたり、支店長であれば、地域内で十分な報酬を得ているケースがほとんどだ。複利厚生も手厚いだろう。

 

つまり、現在の30代~ 40代前半の銀行員は待遇面だけ見れば十分に恵まれている職業の1つだといえる。実際、中堅層の銀行員で転職を本格的に検討するケースは少ない。

 

本人によほどやりたいことがあれば別だが、取引先などから転職の声がかかることがあっても、家族関係や現在の給与・報酬が“壁”となり、転職に踏み切るまでいかない人がほとんどではないだろうか。

 

ただ、銀行員には出向や転籍などがある(図表2)。早ければ40代から出向の辞令を受け、給与・報酬が下がるケースも多い。そのような事情も含めて、転職を希望する場合、仮にメガバンクの中堅行員で現在の年収を上回ることを希望するなら、選択肢はやはりコンサルティングファームや商社などに限られる。

 

一方で、地域銀行の中堅行員の転職先としては生損保なども有望だが、意外なところではリース業界が最近は求人を増やしている。

 

報酬体系が地域銀行とほぼ同水準であり、近年のリース会社はファイナンスやファンド投資、補助金コンサルティングなどの分野にも進出するなど銀行での経験が生かせる職場になりつつある。

 

【40代後半~シニア層】マネジメント力は評価されにくい 条件選ぶ転職のリミットは55歳

40代後半~ 50代になると転職市場では、“マネジメント能力”と“専門性”が問われるようになる。マネジメント能力では、部門や組織の長としてプロジェクトを推進した経験などが重宝される。最近は社長などのトップ人材を募集する企業も増えつつある。

 

ただ、シニア層の銀行員は、組織人として、組織の中で求められる役割を果たしてきた人がほとんどのはずだ。支店長を務めた経験も評価はされるが、今までの銀行の支店長は、どちらかというと営業成績が優秀な人が就くポストという傾向が強いように思う。その意味で、シニア層の銀行員のマネジメント能力が評価されにくいのは確かだ。

 

一方で銀行員の場合、転職を検討するのは50代半ばからという人がかなり多い。要するに銀行でのキャリアの終点が見えた段階で転職活動を始めるケースだ。その時に、「銀行内で色々な仕事をやってきました」と話すだけでは、満足する評価を受けることができない。

 

そして、企業側も採用する以上は、これから10年程度はしっかりと働いてもらいたいと思っている。

 

その意味で、シニア層で条件を選べる転職のリミットは55歳だと思った方が良い。それ以降の転職で給与が下がるのはやむを得ないだろう。それでもやってみたい、経験を生かしたい仕事があるのなら転職も良いだろうが、銀行に居続けた場合にもらえる退職金や家族の理解なども含めて考える必要がある。

 

ただ、前述したGRCの専門的能力があれば話は別で、60代で新興企業などで活躍する方もいる。脱炭素・サステナビリティ分野、M&A、ファンド投資などの知見も有望だろう。

担当コンサルタント

  • 藤枝 美佳

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